代りに梟を用ひたのだよ。」
さう云つたFは、余程疳癪を起してゐたと見えて、二つの拳を胸の前で「馬鹿ツ!」と叫ぶ変りに、力を込めて打ち振つた。
「説明をするとは大変な侮辱だ。」と彼は、さもさも自分は物解りの好い男だといふやうな不平顔を示した。だが、まつたく彼は、説明なしに「お前は若い梟だ。」と云はれたならば、これを或る種の讚美と誤解したに違ひなかつた。
「私はお前に侮辱を捧げたのだよ。お前は軽くて上品な洒落の解らぬ哀れなジャップだ。」
「僕は洒落をもつて他人を嘲笑するやうな不正直は大嫌ひだ。」
彼は向ツ腹をたてゝ斯う怒鳴つた。
「お前の父のH・タキノはお前に比べると何れ位ゐ交際が上手だか知れないよ。」
「無論僕は交際上手ぢやないよ。まして僕はお前の国の習慣なんて一つも知らないよ。」
「私と交際し始めて、もう二年になる。いくら梟だつて二年も実地練習をすればいくらか解りさうなものだ。」
「此方のことだつて解りさうなものだ。」
「解つてゐるさ、お前は怠惰で、そしておべつか[#「おべつか」に傍点]つかひだらう。」
「おべつか[#「おべつか」に傍点]つかひだツて! それは僕を讚めた言葉なのか?
前へ
次へ
全13ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング