植物の始末をした。母家に泥棒が入つた翌朝、一同が家の周囲を検査すると、温室には莚の寝床や酒樽や食物などが散乱してゐるのを発見した。夜々、泥棒が此処を住家にして母家の様子を窺つてゐたといふことが判明して、被害を私のせい[#「せい」に傍点]のやうにされてしまつたことがあつた。――ベン船長は私の父よりも十歳も年上だが、今では船長をやめて米国費府の田舎に多くの家族を従へて幸福な日を送つてゐる。今では、年に一回、彼からはクリスマスの賀状を貰ひ、私は、年頭に[#横組み]“I wish you a happy new year”[#横組み終わり]と書き送るより他に往復はなくなつた。尤も、いつか私の父が死んだ時の通知は、六つかしく私が書かされた。
「こゝではストーブを焚く余地もないな。――陽のあたらない寒い日はどうしようかしら……」
 そんなことも思ひながら私は、その中で椅子の上に丸くなつて胡坐をかき、居眠りをしたり、絵本を眺めたりした。
「……曇りの日のことなんてどうでも好いさ。それまでには倦きてしまふかも知れないし、その時になつたらまた何か考へが浮ぶだらう、困れば――。……だが、この好い天気は当分
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