悪筆
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)温室《サンルーム》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)てれ[#「てれ」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)そろ/\
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 縁側の敷居には硝子戸がはまつてゐる。
 あたり前の家と同じく勿論これは昼間だけの要で、夜になれば外側に雨戸が引かれるのだと私は、はじめ思つてゐたのだつたが、それが、これ一枚で雨戸兼帯だつた。――夜になると、この内側には幕を降ろさなければならなかつた。
 八畳、四畳半、玄関三畳――間数はこの三間で、家の形ちは正長方形である。私は、この家の主人となつていつも八畳の何一つ装飾のない床の間の脇に坐つてゐた。この北側にも一間幅の窓があつて、此処も昼夜兼帯の硝子戸一枚だつた。だがこれは擦硝子なので、未だ幕を取りつけてはなかつたが、今では夜になると氷を背負つてゐるやうな感があつた。それに、どうも見た処が雨戸代りにはなりさうもない体裁だつた。
「こんなにまでしても体裁の方が大切なのかな。浅猿しい気がする。ボロでも安普請でも関
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