に好い工夫はないかな。」
 別段、反対する程の積極性もなかつたが私は、彼女がそんな重さうな何々色の布などを遥々と買ひに出かける姿を想像したゞけでも何だか憶劫だつた。
 日増しに陽が深く部屋の中まで射し込むやうになり、この頃では朝私が眼を醒す頃にはすつかり雨戸が明け拡げられて陽は、奥行の二間あまりしかない部屋を隈なく突き透してゐた。――私は、陽を逃げて、屹度、寝た時とは飛んでもない方向に頭を置いて、それでもまぶしく陽が射して、亀のやうに夜着の中にもぐり込んでゐた。これに辟易して私は、何年振りかで朝起きをするやうになつた。……いつも、春先きの砂浜で昼寝をした時のやうにフラフラと懶い空ツぽの頭で起きあがるべく余儀なくされてゐた。
「これで生活に多少の変化でも出来れば幸福だが――」
 私は、そんなことを思ふこともあつた。
 あたりには丈の高い落葉樹が多く、日毎にその葉が薄れて行くので縁側には殆ど終日陽があたつてゐた。――そこの隅に、以前食膳の代りに用ひた安物の丸テーブルが邪魔になつておし寄せてあつた。
 或る朝私は、そこに絨氈をいくつかに折つて敷き詰めた。そして硝子戸を閉め、その中程に半紙を貼
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