たゞけでゾクゾクとしながら、凝つと怺えて前の方の葉の落ちきつた痩せた木々が冬らしい白い空にくつきりと伸びてゐる姿を静かに見あげてゐた。――幸ひに毎日、風のない麗かな日が好く続いてゐたが、私の砂を口に含んでゐるやうな苛々病はもうそろ/\起りかけてゐた。これが最少し嵩じると私は、稀に散歩に出かけても瀬戸物屋の前が通り憎くなるのであつた。
 何処の家でも、もうとうに冬のカーテンを懸けてゐる。斯んなに鼠色に汚れた白い布などを引いてゐる家は一軒だつて見あたらない、これからは昼間でも寒い曇り日などには幕を掛けなければならないのだ、厚味のある重さうな何々色のカーテンをあたりに引き廻らせれば温かく落つく、硝子戸一枚だつて決して心配はいらない――と、いふやうなことを彼女は幾度も説明したが、私は自分から先きに云ひ出したのにも係はらず、と聞くと、私はあまりに乗り気にもならなかつた。そして、反つて私は彼女の提言を嘲笑ふやうな顔をしたりした。
「堪らないのは、このうしろの窓だ。」と、私は唇をもぐもぐさせながら云ふだけのことだつた。「幕の下にでも俺は、あの擦硝子を感ずると凝つとしてはゐられなくなりさうだ――何か他
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