つて山の番小屋のやうになるのも好い、あたりには出たらめに椅子を散らかしたり、寝転びたければ畳に寝転ぶし、襖や障子は一切取り脱してしまつて、カーテンだけに囲まれてゐるガラン洞にするのも反つて便利かも知れない……そんな風にでもしなければ子供までもせゝこましくなつてしまふかも知れない、俺は、あの頃山の番小屋にやられたのであるが、その時はもつと/\活気に充ちてゐた筈だ、この生活が悪いのだ。
「それ位ひなら、ほんとの田舎に越しませうよ。」
「直ぐといふわけには行かないもの。」と、私は、稍々醒めて不平さうに答へた。
翌日、陽はあたつてゐたが、風のある乾いた午後だつた。前の晩に私は、そんな馬鹿気た想ひを助長させて終ひに彼女を多少脅やかしたらしかつた。――私は、こんな日には此処の日光室に入るのは厭だつたのだが、白けた気分でその中にかくれてゐた。自画像も点字機も上の見えない棚に載つてゐた。私の心は、完全な無精に陥ちてゐた。
もう落ちる葉はないので屋根には音はしなかつたが、埃を含んだ風が其処を吹いてゐるのかと思ふと私は、また悪く歯が浮いてしまつた。そんな屋敷を戴き、薄つぺらな硝子戸に隔てられて――直ぐ
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