」
「風がある日には、それだけでも堪らないでせうね。」
「この辺は屹度、埃りも酷さうだ。」
「家が狭ますぎるわ。」
「鉄の大きなストーブを焚くことに仕ようかな。ヲダハラの家に、火事で一遍火は浴びたと思ふが、ずつと前に山の工場で作つた大型のストーブが、たしか今でも物置きの隅にあつたやうな気がするんだが、多少修繕をしたら使へやしないかしら……」
「だつてそんな置き所もありはしない。」
私は、既に考へてゐたやうにすらすらと説明した。「玄関に置かうと思ふんだよ、煙突をつけて。田舎らしい感じが出てゝ好くはないかな。――さうすれば、たつたこれだけの家だもの、忽ち家中が……」
「馬鹿/\しい。石油ストーブ位ひで丁度好いんぢやないの。」
「御免だ。――薪か石炭を焚くんだ。さうすれば玄関だつて一種の居間にならないこともない、二畳敷の広さはあるし――。利用するんだ。バルコンもあるし、炉辺も出来るわけだ。」
彼女は、問題にしなかつた。それよりも私がまたどんな突拍子もないことを云ひ出すかを不安に感じたらしかつた。
「玄関などの必要はない。」などゝ私は稍々無気になつて呟いでゐた。この小さな家全体が、常習を破
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