点]は慨然として決闘を申し込んだ。
「そんな話を俺は、いつか何かで読んだことがあるんだよ。」
「君のそんな例の引き方こそ執拗だ、面白くない。俺は、何もこの絵を、展覧会に出さうと思つてかいたんぢやあるまいし……」
「さよなら。――今度かいたらまた俺が見てやるよ。かくんなら、矢張りこれに懲りずに自画像をかけよ……」
「うむ、そのうちにまたかいて見る。」と、私は、玄関を出て行つた親しい友達の後ろ姿に呼びかけた。
「あれ以来絵筆を忘れてゐたが、久し振りでまた自画像をかいて見ようかな。」
 その友達から激励の手紙を貰つたので私は、そんなことを思ひ出して呟いだ。――「こゝで、この中にかくれて秘かにかいて見ようかしら、また山あらしになつてしまつたら誰にも見つからぬうちに破いてしまはう。それにしても今度は、も少し具合の好い鏡を買つて来なければならない、恰度顔だけが写る大きさの鏡を……その鏡を選定するのに一寸と骨が折れさうだ。」
 おや――と、私は思つた。「斯んなに晴れ渡つた好い天気だといふのに可笑しいな? 雨なのかしら?」
 屋根に、ぱらぱらと小粒の霰が鳴るやうな音を聞いて私は、首をかしげた。
 脊伸
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