て進んで行くと、誰でも、ちよつと物狂ほし気に爽快な滑走! を誘はれる――そんな、見事な一直線の街道である。
「ぢやお父さん、先へ行つてゐるわよ。お父さんが出かける時分には乗合が通るわね、あれでいらつしやい。」
娘は父親を振り向いて手を振つた。
若者は、パンアテナイア祭の物語を何んな風に話して娘を悦ばさうか知らと思つてゐた。娘に素晴しい果物籠をつくつてやらなければならない! と思つてゐた。
「道々にこの花片を撒きたまへ。……夢にも後を振りむくことなしに、この瑠璃色の朝陽を衝いて、さあ、一散に発ちたまへ。」
若者は諳誦した。
「あの本の話をして――」
「アハヴは――」
と云つたゞけで若者は喉が塞つた。そして吾知らずタイキに鞭をあてた。タイキは一散に駈け出した。
「アハヴは不幸だ。俺は何処までも二人だな……。祭りへ行くのだ、パンアテナイアの祭りへ!」
若者は夢中で叫んで唇を鳴し、空に朗らかな鞭を鳴した。
「あゝツ、速い! 面白いな――」
と娘は若者の腕をつかんで叫んだ。
「面白い? そんなら明日から、毎日あの白い川のほとりを――。あの堤の夜明け時なら……」
若者は、もう少しでそ
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