のであらう――と私は思つたから、私は一切の痴夢から醒めて、慌てゝ戸外に走り出ると、メイ子は私の腕の中にぐつたりとして打ち倒れた。私は雪二郎を呼んで、メイ子に水と気つけ薬を服せしめた。
「ガラドウが来る、ガラドウが……」
「メイちやん、もう大丈夫だ。ガラドウの奴来て見やがれ、忘れ河の中へ……」
私達の介抱に依つて息を吹き返したメイの話を聞いて見ると(私は、ガラドウがメイを手込めにしようと襲ひかゝつたに相違ないと思つたのであつたが。)ガラドウが今にも私の許へ鎧櫃を瞞しとる目的で、一世一代の智謀をふるつた(と彼が云つた由。)狐となつてやつて来る筈だから決して化されてはならぬといふ注進であつた。
今年の春の祭の時に余興として鎧武者の戦争劇を演じたところ、楽屋から火を発して村中にある二十体の鎧兜を悉く烏有に帰せしめ、今では質屋に遺つた私のそれが唯一のものとなつてゐる。祭りの武者用には古来から此処に伝はる鎧でなければならなかつたので、結局私のそれが登用されることになつたのであるが、昨夜から徹宵の村議の結果、誰人でも真ツ先にそれ[#「それ」に傍点]を私の所有から奪ひとつた者が、この先何年間といふ
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