私は空力があまつて肩を滑らし、あはやと云ふ間もなく真つさかさまに水中目がけて不慮のダイビングを試み、危うく溺死しかゝつたところを雪五郎に救助された。毎晩/\雪五郎父子と共に囲炉裡のまはりに集つて私も盃を執りあげるのであるが、さま/″\な債権者がおし寄せて来て彼等はもう私達の平身叩頭の詫びも聞き倦きて、明日にもこの古呆けた水車小屋を乗つとらうとする勢ひであつた。
「雨が降りさへすれば、忽ち車は回り出すんでございます。どうぞ、それまでお待ち下さい。今、その俵を持つて行かれては、今夜にでも恵みの雨が降り出して、いざ車が回りはぢめたとしても、それこそ私どもの臼は空つぽのまゝで、杵に打たれて割れてしまふより他に道はございません。」
雪太郎が、畳に頭をすりつけて涙ながらに詫言を述べると、私たちのまはりに車がゝりの陣立でぐるりと勢ぞろひをしてゐるむくむくとむくれあがつた雷共の中から、中でも獰猛な地主のアービスが腕まくりをしながらすゝみ出たかとおもふと、いきなり物をも云はず拳骨玉を振りあげて雪太郎の頭をぽかりとなぐつた。そして、役者のしぐさよりも役者らしく真に迫つた怖ろしい憎みの見得を切つて、
「え
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