い、この空つぽの臼頭奴が――」
とほき出した。――「こばから皆な杵に打たれて死んでしまやがれツ。」
それに続いてアービスの従者のアヌビスが、自慢のねぢくれ腕を、ぬつと、今度は、父親の雪五郎の鼻の先に突きつけて、
「金が返せないといふんなら、うちの若旦那の御所望通りに、うぬの娘をお妾奉公に出すが好いや。何も奉公に出したからと云つて、とつて喰はうと云ふんぢやない。斯んなぶつつぶれ小屋で、喰ふや喰はずの暮しをしてゐる貧乏娘が、俺らのうちの若旦那のお情けを蒙るなんて、夢にもない大した出世ぢやねえか、そんな妙佳も知らずに、一体娘は何処にかくしてしまやがつたんだい。やい、やい、やい、さあ、ぬかせ、娘の在所《ありか》を云やあがれえ。俺達一同は、手前達のぺこぺこお辞儀の体操を見物に来たんぢやないぞや――やい、この米搗きばつたの老ぼれ野郎奴!」
と、まことに(立板に水を流すやうに)ぺらぺらとまくし立てるのであつた。私は、立板に水を流すやう――といふ形容詞に不図出遇ふと、何とまあ見る間に、小川の流れがさんさんと水嵩を増して節も長閑に水車が回りはじめた光景が、ありありと眼の先へ浮びあがつて、胸が一杯に
前へ
次へ
全43ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング