里を遠く離れた丘の家を根城として、仁王門掠奪の議を回らせたり、車座となつて丁半の博奕を打つたりしたいばかりで、私の出立を急いでゐるのであつたが、さうなると私は寧ろ陰気な興味が起つて来て、わざと、夜昼の別をとり違へて、ぎろつとして、彼等の酒盛りの部屋の前を往行したり、また、私が寝台にもぐつてゐるのを見届けて、そろそろと悪事の相談会を開かうとすると、突然私の大きな咳ばらひにおどかされて、散会させられたりしてしまふのであつた。
さつきもさつき私がハムモツクの上で、うと/\してゐると、彼等の仲間が様子を窺ひに来て、
「御散策にでもお出かけかと思つたら、斯んなところでおやすみですか、お仕事の方は如何ですか、お部屋が大分綺麗に片づいて居りますな。御出発のお手伝ひなら、私共にお命じなさいませんか。」
などゝ云ふのであつた。
「なあに僕は――」
と私は故意に飄々と云ふのであつた。何故なら彼等は、夙に私を目して風来的な素質に富んだ詩人と断定して、私が吐く言葉は決して他の心根を蔵さぬものと信じてゐた。「行かうと思へば、このまゝ、ぶらりと――誰に、何の挨拶もなく行つてしまふよ。あまり天気が好いので、今
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