ダニューヴの花嫁
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)白雲《はくうん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)矢の倉[#「矢の倉」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)雲が/\/\……。
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

     一

 白雲《はくうん》は尽くる時無からん、白雲は尽くる時無からん……白雲は――。
 おゝ、あの歌はどこの人がうたつてゐるのであらう、何といふ朗々たる音声であらうよ、その声がそのまゝ雲のやうだ、あゝ、あゝ、あれを御覧、あれを御覧、雲が/\/\……。
 そんなに思つて、うつとりと口をあけてゐると、みるみるうちに青空はるかに棚引いてゐる白い雲が、ハラ/\と雪のやうに飛び散つて、降つて来る! 降つて来る! こんこんこんと飛び散つて来るかと思ふと、私の眼蓋の上に来て、ほとほとゝ愛らしい音を立てながら小鳥のやうに羽ばたくのであつた――それにしても、その羽ばたきの触感が、冷たくも何ともなくて更に更に甘い睡気を誘ふのであつた……。
「面白い/\!」
 と
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