私は呟いだ。
 ――夢から醒めた。
 私は、河畔《かはべり》の葦の洲の上で、一方の腕をたくみに水の上にのばせてゐる茱萸の樹の枝から枝へ吊つたハムモツクで、うたゝ寝の夢に烏頂天となつてゐた。
「はははは……こゝまで来れば、例によつて先生の風琴の音が聞えるだらう、そいつに勢ひを得て一ト息に矢の倉[#「矢の倉」に傍点]までのしてしまはうと思つてゐたところが、ぐつすりとおやすみぢや仕方がないや……」
「誰にしたつて、この陽気ぢや眠くもならうと云ふものさ、なあ兄さん――未だ、じぶん時には少々早からうが、俺らも此処であつさりと弁当をつかはうぢやないか。」
「さうだ/\――よういとまけ/\……」
 ありのまゝの言葉づかひにしては、あまり間のびがしてゐて、恰度この河の流れのやうに悠長すぎるではないか――だから、それも私は、夢の中の歌ぢやないかな? といふやうな思ひにうとうととしてゐると、間もなくギイツといふ舵をまげる音がして、やがて舟は舫杙につながれた。そして雪太郎と雪二郎がのこのこと私の下に現れた。
「やはツ! やつぱり左うだつたのか……君達の話声が、あんまり朗らかなので、僕は夢の中で天狗と散歩をし
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