てゐたんだが、そいつがそのまゝ天狗の声と響いてゐた。はつはつは……麗らかな天気ぢやな!」
 私は、吊床に腰をかけて二つ三つ大きく揺り動かせながら、それと同じやうに大きくわらつて、ばさりと兄弟の前に飛び降りた。そして、ひようきんさうに鼻高のシラノのやうな見得を切つて、胸をひろげた。
「そいつは、どうも――」
 兄弟は同時に肩をゆすつた。
「折角の素晴しい夢をお騒がせ申して、何とも、いやはや申しわけがありませんでしたな、あつはつは……」
「一処に登らうよ。斯んなところで弁当を喰ふのも張り合ひがないと云ふものだ。」
 云ひながら私は、二人の間を割つて夫々の肩に翼のやうに腕をかけて歩き出しながら、脚もとの田舟を指差した。
「矢の倉まで行かう、風琴は持ち合さなかつたが、舟歌は一手に引きうけたぞ、ヘツヴ・ハウ、ヘツヴ・ハウ My heartful......sky wearing my solitary heart upon thy sleeve ……どんなもんだい。待つてゐたんだよ、彼処までたどり着けば、もう君達は今日は用事はないんだらう。ともかく僕は愉快なんだ。斯う天気が好いと、僕は、今、この
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