、それを考へてゐたところさ。」
全く彼等との敵対行為は私に幾分の興味を呼び起してはゐたが、そんな気分にばかり関はり合つてゐると、つい、それも面白くなつて容易に仕事に手が出さうもなかつたから、一層舟をつかまへて、このまゝ出発してしまはうかとも考へてゐたのである。
「それは/\!」
と彼等は思はず乗り出して、蔵する限りの愛嬌わらひを浮べた。「何しろ私達、畑違ひの者がいろ/\と出入りしては、御気分に触つて大事なお仕事の方が留守にでもなるでせうからな、私達も、もう、そればかりが心配で心配で恰もハレモノにでもさわるやうな思ひで、はら/\してゐるんですもの。」
「僕も、いつまで愚図々々しては居れんのさ、構想も、もう充分となつたから、仕事は都のアパートにでも行つて……」
「待つてゐますよ。先生の本が出ましたら、私達にも屹度読ませて下さいね。――楽しみだな。先生がこれから何んな立派な小説をお書きになるかと思ふと、私達はもう今から胸がぞくぞくしてまゐりますよ。」
私のそれ[#「それ」に傍点]は時代を遠く戦乱の世にかりた伝奇小説ではあるものゝ、巻中に出没する多くの悪党共は、悉く奴等の姿をありのまゝ描
前へ
次へ
全27ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング