ヤもなく街道の坂下の方角から物々しい法螺貝の音が響いたかと思ふと、がや/\といふ人々の喚き声が次第に仁王門を目がけて繰り込んで来るのであつた。――貝殻の音があたりの梢に陰々とこだまして、やがて行列は門をくゞりはじめた様子なので、そつと私は幕の間から見降すと、村長、助役、議員達をはじめとして矢の倉村の人々が、てんでんに赤襷白襷の見るも甲斐/\しいいでたちで、どつとばかりにおし寄せて来るのであつた。
「村の人達は此処に勢ぞろひをして、これから舟で竜巻村へ降りるんです。」
「一体、それは……」
訊ねやうとした時に私は彼等がおし立てゝゐる幟の文字に「矢ノ倉仁王門撤廃反対運動」とか「古跡を保存すべし」とかその他、代議士候補桐渡一派を弾劾する様々な檄文を読みとつた。
一隊はどや/\と私達の茶屋の前に集ると、爆竹の火花を挙げ、鬨の声を挙げて、天に沖する威気であつた。
「皆なが、先生を呼んでゐる――私達も出掛けるんですよ、私達の娘子軍《アマゾン》も……」
お雪は、投網を畳んで登山袋に詰めはぢめた。みちみち、網を打つて、糧食を求めるのがアマゾンの役目の由であつた。
「それぢや恰で、去年の春の川遊び
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