獅凵@hair; I yet will save one, if but one, soft smile reward me when it is done.」

     三

 纜綱が解かれると舟はゆる/\と降りはじめた。私はトランクに凭り掛つて、雲を眺めてゐた。舟の後先では雪太郎と雪二郎が、黙々として竿を操つてゐた。
「おゝ、お雪が来る――名残りを惜んで。」
 誰かゞ左う云ふので私は岸の方へ眼を向けると、明るい橙色の上着を着た娘が、流れに平行した畦道を山鳥のやうに飛んでゐた。
 汀の野花をひきちぎつては、切りに舟を目がけて投げてゐたが、そこまでもとゞかず花片は吹雪となつて水の上に散つてゐた。――飛びはねる毎に明るい翼がきらきらと陽に映えては、また草の中に姿をかくす……。
「あれは山鳥だよ、やはり……」
 と私は呟いだ。然し鳥は、私達に向つて切りと何か呼びかけてゐる。
「鳥だらうか、お雪だらうか。」
 私達は二三言云ひ争ふてゐたが、何故か私は、
「それならば――」
 と自信のありさうに唸つた。だが私は、それが鳥であらうとお雪であらうと頓着はなかつたが、無性に悲しくなつて、それならば
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