らの山々の谷間を流れる三条の谿流が麓の村境ひに合して、あれらの舟を泛べる河となるのだ。
私は、流れに向つて、つたへよや、かの窓に屯ろする人々に――
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涼風夜雨を吹き
蕭瑟として寒林を動かせり
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などゝ歌つて、切りに復讐の体操を続けてゐたが、汀を眺めると、恰度寝椅子に似たかたちの石に鳥のやうにその身を横へて、私の体操の終るのを待つてゐるお雪が、水鏡に凝つと視入つてゐた。寝椅子の裾には深々として孔雀歯朶が、絨毯のやうに生ひ繁つてゐた。もう聞き飽きてゐるためか彼女は、私が次第/\に何んなに歌の調子を高めても、身動きもしなかつた。彼女は、さつきの獲物の羽毛を花びらのやうに水に浮べながら、もの思ひに耽つてゐるかのやうに見えた。
そして私は、私の歌の絶え間にそつと耳をそばだてると、それは娘のうたふ声に違ひない――。
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With outstreched arms upon the shore she stood,
With tearful eye she gazed upon the flood,
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