らさかんに私を呼ぶ声が起つた。
「わあい――獲れたよ。」
お雪は鳥の脚を掴んで宙に打ち振つてゐた。さつぱり興奮してゐるわけではなかつた。それなのに私は、非常に興奮して、バケツを投げ出してその傍らへ駆け寄ると、
「やあ、偉い/\。素晴しい――」
さう叫ぶと一処に、思はず娘を腕に載せて、激浪のやうにゆすつた。ほんとうに私は、相当の専門家でない限りそんな鳥などは打てるものではないとばかり思つてゐたので、酷く彼女の腕なみに驚嘆したのである。
お雪は私があまり真心から感嘆しつゞけるので、すつかりあかくなつて――いつも私の食膳にのぼす鳥料理は悉く彼女自身が打つて来ることや、だが近頃私が朝な朝な出鱈目な空砲ばかり鳴らすので、次第に鳥共が森の奥へ奥へと逃げ去つて了ひ、仲々この辺には現れなくなつた由などを述べた。
「知らなかつたな、それは――。昨夜もたしか鳥の御馳走があつたぢやないか。」
「えゝあれ山鳥よ――谷の向ふ側へ行つて打つて来たのよ。」
「ひとりで……?」
径の在所も知れぬ熊笹の崖である、流れの岩を飛んで胸突きの崖をよぢ登ると、国境の山々を見晴らす明るい芝の野原に出るが、私は何時かの春の
前へ
次へ
全27ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング