ぞ愉快だらうが――などと彼は思つた。
「もう船が出る時分だね。」
さう云ひながら、あがつて来ると宮田は、彼の傍に寝転んだ。
「着いてから行つて丁度好いよ。」
二三日うちに全国庭球大会といふ競技があるさうだつた。宮田の兄は小田原クラブの選手で、三時の船で来るさうだつた。
庭球大会の日には、彼も見物に行く約束をしたが、寝坊して行き損つた。午後から行かうとも思つたが、うつかり昼寝をしてしまつて、帰つて来た二人の宮田に起された。宮田の兄は、ぐつたりと疲労してユニフォームの儘大の字なりに座敷に寝転んだ。小田原組が優勝してカップを獲た、と自慢した。
いつもの通り彼は、壜詰の酒や缶詰の料理などで酒盛りを始めた。弟の宮田は、酒好きの癖に、兄貴の前では一滴も飲まなかつた。馬鹿な放蕩をして、一年ばかし勘当されて漸く帰参が叶つたばかりだといふ話だつた。道理で弟の宮田の奴イヤにおとなしく兄貴の云ふことをヘイヘイと諾《き》いてゐやアがる――と彼は思つた。
彼は、それが一寸気の毒にもなり、白々しくもあつたので、
「ほんとに飲まないのか。」と弟の宮田を見あげて苦笑した。
宮田は、笑つて点頭《うなづ》いた
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