彼等に告げなかつた。
 私達は、私が吹聴するプラトン流のイデア論の灯火のまはりに集つた共和生活の遊蛾であつたが、そして私も自身を、「灰色の蛾」といふ意味で――おゝ思ひ出しても冷汗が浮ぶ故、その代名詞は再録したくない――何々などと名附けてゐたものであるが、私はランプの蓋《かさ》に凝ツと翅を止めて、
「では、その矛盾なる言葉は取り消させて貰はう、その代り吾々は明日をも待たず今宵のうちに、各自の光りを索めて四方に散るとしようではないか。全く色彩の異るガウンを着けた夫々の友達から、同程度の好意を寄せられるといふことは、終ひには僕が白色になつてしまふといふ結果になるであらう。」
 と提言した。
 憐れな夢を私は持つた昆虫の如き存在である――と私はその頃、自分を目してゐた。
「灰色の友よ――」
 その頃呼び慣れてゐた仇名をもつて、Aが私に答へた。「では、君が今、とりかゝつてゐる作品の脱稿を待つて、各自発足することゝしようではないか。」
「そいつを旅費としよう、四つに分けて――」
 AとBの意見が一致したのは、この時一度であつた。
「よからう。」
 と、灰色の蛾は触角を微かに震はせながら賛同した。彼
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