もなささうだ、魔術の練習かしら、不思議な人達だ――と私と女房は首をかしげたが、懸物が現はれたり、花瓶が運ばれたりして、それが周囲の人達の手に渡されてゐるのを見てゐるうちに、漸く私が、
「オークシヨンだよ。」
 と気づいた。
「あゝ、あの首飾りは、妾、欲しい――何う云つたら好いの?」
 女房は私に取り縋つて、声を震はせた。――私は、いきなり窓に向つて、
「そいつも偽物だぞ!」
 と大喝した。
 男は、窓の下にあつたテラスに、買手のない物品を一先づ投げ出してゐたのであるが、石垣の修繕作業のために、とり脱けられてあつたので、彼が投げ出す品々は悉く私達のゐる崖下に転落してゐた。非常に亢奮して表門から圧し寄せた彼等は、暗い裏側の出来事に気づいてゐなかつた。だから私達は、さつきから種々な品物を首尾よく享けとつてゐた。私は、一つ一つ投げ出されて来たアメリカ土人の|鳥かぶと《モンクス・フード》を頭上に戴き、トーテム模様を織り出した草織のガウンを着て、腰にはサアベルを吊りさげ、朱塗りのカラス面をかむつてゐた。そして女房は、夜目にもあざやかな白地に|トラムペツト・フラワー《のうぜんかづら》の縫取りを施した
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