絶れ目毎に脚で闘つた。それが相手までは届かずに、交互に私の臀部にあたつた。そして、抜けさうな両腕の痛さと、蹴られる度に思はず宙に飛びあがつてしまふ私を心棒にして追ひつ追はれつ風車となつて回転した。女房は白々しく鞭を振りながら、つまらなさうに風車の後をついてゐた。創作家なんていふ徒輩は悉く酔つ払ひの神経衰弱者見たいなものだと思つてゐたから、どんな騒ぎが起つても彼女は何時も馬耳東風であつた。皆な気狂ひのやうな自惚れ家だと思ふだけだつた。
 タービンの回転は益々速度を増して私には、八郎と七郎の、そして私自身の区別も判別出来なかつた。凄まじい旋風の中に私は「うぬ!」とか「畜生奴!」とかの唸りと、西瓜のやうに蒼い二個の顔と、そして痛さのために挙げる自分の悲鳴を聴いた。――円い月が幾つにも見えた。あちこちの遠い灯火が金色の雪に見えた。ガードの下で私達は列車の響きを知ると、バラ/\になつて一目散に駈け出した。
 九郎は終列車にも姿を現はさなかつた。
 三つの片々となつた風車は、馬車に積まれると、口をあいて月を仰いでゐた。女房が御者台で、口笛を吹いてゐた。ドリアンの蹄の音が野中の街道に戛々と鳴つてゐた
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