のか――と云ひ張つてしまつた。語源を正さうとする者が現れなかつたのは私は、幸ひとはしたものゝ、以来彼等が口滑り好くそれを私の個有名詞に用ひ出したが、称ばれる度に私は屈辱の稲妻に射られた。私は、決して私を「偽詩人」と目してゐなかつた。私は、私の亡霊を偽詩人なる汚名を冠して追放してしまふほど、憎んでゐなかつた。――それだのに私は、八郎や七郎の敵味方の唯心派と唯物派に、同程度の関心を持つかのやうな己れのとりとめもない心情を軽蔑するに至つた。|安定律の測度器《スタビリテイ・メーター》を破壊した舟が竜巻に呑まれて立往生をしたやうに、私の亡霊は夫々の翼に「夢」と「現実」の風をはらんで吾と吾身が二つに裂けるのではないかと怪まれた。怯堕を鞭打たれた。――それにしても私は、自らそんな仇名をつけてしまつた私は、背後から響く斯る嘲笑の声に打たれて事毎に夢を消され、言葉をさへぎられて、矛盾の真空管に窒息した。
それでも否応なくそれを脱稿して、春となつてからは、こんな思ひに堪へて見るのも次の仕事の夢の緒口を辿るよすがともなるか――といふやうな呟きの煙りが辛うじて細々と立ち昇るおもむきを感知した。眼をつむつて見
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