……そんなことでも繰り返さずして、何うして、計り知れざるネプチューンの御気嫌を、おめ/\と待つてゐられるものではないのである。
私は、自分が作家である故に斯んな説明詞を付け加へるが、恰もそれは、私達が一つの作に取りかゝるであらう前の、理窟や、情実や、知識や、哲学では何うすることも出来ないきらびやかな烈風との戦ひ、捉へどころを知らぬ無限の寂莫、涯しなき虚空へ向つての反抗、そして、止め度もなき寂しさを抱いて、さ迷ひ廻り、はしやぎ廻り、偉さうな議論を喋舌り廻り、恥も知らず、誉れもなく、たゞ、ひたすらに命かぎりの祈りを挙げる、「あの蟷螂の斧」「あの嘆きの寄り合ひ」――あの芸術至上感と、何んな隔てもない情景であつた。
「ぢや僕は、このまゝ出かけて行つても関ひませんよ。」
「いゝえ、若し納屋へ帰つてHさんがゐたら、Hさんを誘つて来て貰ひたいと思つて……」
「オーライ――」
私は、何か気分が颯爽と翻るのを覚えて返事するやいなや、すた/\と歩き出してゐた。――流れが迂回する角まで来ると、其処の水門にせかれた水が、さん/\といふ音をたてゝ滝になつてゐるのに気づき、不図振り返つて見ると、Gは未だ牛車を
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