しくカン/\とあたりに綺麗に響き渡りながら、細君かメイか私には判別もつかなかつたが、それらの言葉が途切れ/\に伝つた。
「何といふことだ!」
「だから、メイちやんが、それに困つて、相談に来たんぢやないのよ。」
「相談もくそもあるものか――待つて呉れ、苦しい、俺の手を引ツ張れ!」
私は、よろめいて窓に凭り、
「これは何階だ?」
と訊ねた。
「三階!」
(これ位ひ大きな木馬があつたら愉快だらうな。)……私は、斯んな激情の頂点で、不図そんな空想に走り、窓から外に顔を出した自身を可笑しく思つた。
メイが悲しさうに云つた。――「うちの父さんが、あの人のお父さんにお金を沢山借りてゐるんだつて!」
「何云つてやがるんだい。それが何うしたと云ふんだい?」
私は、怒鳴つて、立どまつた。
「四階よ……そして、うちの店は何時の間にかあの人のうちの……」
「待つて呉れ!」
私は窓から大空に向つて太い息を衝いた。そして、これが巨大な木馬の腹の中での騒ぎであるやうに想像して、義憤の血に炎えた。
「エレベイターに乗らう。」
「此方の方が好いわ。――そしてうちの父さんに向つて……」
「あの男は、そんなことを
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