は斯んな綺麗なメイちやんがゐる、斯んな素晴しいマーガレットがゐる!」
 私は、兵士の歌を口吟み、凱旋の踊りを誇示して従順な酌女の傍らに寄り添ふと、その美しいみめかたちに見惚れて陶然とするのであつた。
 そして稍ともすれば、常に侍女として従へてゐる細君に、
「何ですね、あなたは!」とか、
「あまり、あの人達の傍に寄り過ぎて、でれ/\なんてすると酷い目に会せるよ。」
 などゝ白眼をもつてたしなめられ、漸く吾に返るやうなことが屡々だつた。私は、驚いて、
「悪く思はないで呉れ。突如この煌めかしい街に現れて、何うして心踊らずに居られよう。――さあ皆なで、踊りに行かうではないか。」
「おい/\、凱旋気分ぢや困るよ。――出陣なのだ。――会議だ。」
 と友達は私を制御した。彼等は、新しい雑誌の許に、花々しい芸術運動を興し、その同人会を夜毎に繰り返し、私もその一員に加へられたのであつた。
 ――会議だ! といふ言葉を聞くと私の胸には、あのR漁場の生活が猛々しく回想されて不思議な力を覚えた。
 私は、
「では、酔を醒さう、そして頭を冷たくしよう。」と呟きながら、その酒場の片隅の小窓をあけた。大きなビルヂン
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