の芝居が円満に成就することを祈る! といふしるしのために――だつてさ。」
「チエツ! 笑はせやがる、――」
と私は呟いたが、まんざら悪い心地からではなかつた。
「Gさんが迎へに行つた写真屋が、もう間もなく町から到着する時分よ。」
近い都へ行くのであるが、送る! といふのは何だか悲しい、で、斯んな芝居を考へたのである……。
「笑ひたければ、たんと笑ひなさい。」
「決して笑はぬ。有りがたう!」
と私は、厳かに剣を振つて挙礼した。
「好い思ひつきだつたでせう?」
「隣りの町の酒場へ行く時と、そんなに変らない気持で行きなさいね。」
二人の娘が次々に得意の風を吹かせて、
「行つていらつしやい!」
「御気嫌よう――何処まで一緒に送つて行きませうか。」
などゝ云ひながら、左右から甘い眼差をあげて私に凭りかかつたので、私は、切なさうに喉を鳴し、あの芝居の中の、
「斯んな月夜の晩に君等と一緒に出かけるならば――」
……の科白を、発声して、二人の学生の奇智を賞讚するのあまりに博士が彼等を抱きあげて接吻する劇中の場面と同様のクライマックスで、交々に二人を引き寄せて感激の情を露はにした。
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