はまた如何続けようとも、大して効果に触れる程のものでもなかつたのだが、そんなことは彼は忘れてしまつて、大変に自尊心でも傷けられたやうな憤慨を感じたのである。
「何としても、一、二、三! が、結末ではやり切れない。……安価で、気障な技巧にさへ見えるではないか?」
彼は、反つて「自然の皮肉で――」などゝ思つた――自然の皮肉で、軽卒な思想の持主である己れを、巧みに冷笑されたやうな切なさを感じた。……つまらないことに興味を持つたり、愚かな心の戯れを美文調子に歌つたり、翻つて思へばどれもこれも鼻持のならない文句ばかりで――そして、この頃の何とかの苦しみとかも……皆な軽蔑に価する程の無用のことのやうに思つて、彼は、がつかりとしたのである。以前往々同人雑誌の友達などが、お前の小説は悪い意味で技巧的である、などゝ、批難されて、何の反す言葉もなかつた頃のことなどが、今更のやうに思ひに浮んだりした。
「偶然、こんなところで断ち切られた方が、反つて相当だつたのかも知れない、あの先の結末は一層気障な文章ぢやないか。」
彼は、ふとそんな馬鹿なことを思つて、間の抜けた笑ひを出した。それにしても、斯んな場合に、
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