「或る日の運動」の続き
牧野信一

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 ――「泳ぎ位ゐ三日も練習したら出来さうなものだがな!」
 私は、此間うちから、かくれて読んでゐた水泳術の本を、鍵のかゝつた本箱の抽斗しから取り出して来て開いた。
 そして私は、本にならつて腕を挙げたり下げたりして見た。私は、座敷に入つて、腹逼ひになつた。
「一、二、三!」
 ――――――
 彼は、某雑誌に出てゐる自分の『或る日の運動』といふ題の小説を、そこまで読んで当然次の頁をめくつて見ると、そこには他の人の文章が載つてゐた。好くある頁の入れ違ひかとも思つて、隅の頁附けを験べて見たが、そこは間違ひなく数字が順を追つてゐた。
「はてな……」と、彼は空々しく首を傾けたのである。つまり、その雑誌の上では、彼の自作である『或る日の運動』は「一、二、三!」――で、終つてゐるのだ。
 その小説は彼が、前の年の暮、十一月の下旬から十二
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