も二頁あまりなければならないのだ。」と彼は口を突らせて呟いだ。――大した不快を感ずる程の熱情もなかつたのではあるが、一寸酷いと思つた彼はあの箱の中から、去年戻つて来た儘になつてゐる最初の校正刷りを出して、験べて見た。――落ちてゐたのは二頁あまりではなくて一頁あまりだつたが、そんなことは如何だつて関はない! 此間の校正の時に、頁の順が入り乱れたりしてゐたので自分は、わざわざ終りまで訂正した番号数字を記入して渡したではないか! などゝ彼は、不平を洩した。
 斯んなことで、肚をたてるなんか子供じみてゐるぢやないか! そんなに思つて彼は、つまらない苦笑を浮べたりしてゐるうちに、間もなく心から肚がたつてしまつた。
「斯んなところで、断ち切られて堪るものか、無責任にも程があるといふものだ。」
 一、二、三! これは、その中では「私」となつてゐるが実際は彼自身である主人公が、独りで或る運動に取りかゝらうとしたハヅミの、てれ臭い掛け声なのである。
「チエツ!」と、彼は思はず顔を赤くして舌を鳴した。
 一体彼の小説は、己れの痴想ばかりを厭にギリギリと綴り合せた態の文章だつたから、何処で断ち切らうと、或ひ
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