陰に乗じて、滑稽な笛を吹く――詩を、作つて悲し気な微笑を洩してゐた頃だつた。」とか、「山村は、多少の恥らひを含みながらも、いつの間にか自分の技倆に恍惚として、息を衝く間も見せず鮮かに鉄棒に戯れた。天空を飛翻する鳶の如く悠々と「大車輪」の業を見せて、するりと手を離したかと見ると、砂地に近いところで伸々とした宙返りを打つた。べリイブライト……Fは思はず叫んで照子と私を顧みた。」とか、「Foolish といふ言葉に、軽蔑や嘲笑の意味が含まれてはゐないんだな、こいつア、返つてどうも堪らないぞ! 患者にされてしまつたわけなんだな……Foolish boy! A Foolish boy……私は、そんなことを呟きながら。」とか「妾だつて、洋服を着ければそんなに肥つて見へやしないわよ、妾は、さつきもお湯に入つた時、鏡の前に立つて見ると自分の格構に見惚れたわ、何だか自分ぢやない気がするのよ……と、照子は」とか、といふ風に、読んでゐると彼は、この頃の自分に引きくらべて、退屈ではあるが爽やかな快さを感じた。そして彼は、読み通して来ると、
「一、二、三!」で、その小説は終つてゐるでないか!
「この後が、少くと
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