ら「スポーツ」刈りも案外、組みし易い気さへした。……「C氏にそんな愚痴めいたことを話すなんて止せ/\だ、あれはあれで仕方がないさ、そんな間があるのなら、別に考へなければならないことが控へてゐるぢやないか!」そして彼は、
「姑息! 姑息!」と、思ひながら狡く情けない笑ひを浮べてゐた。
 ミス・F――や、照子を相手に因循な日を過した七八年も前の追憶をたどつて『或る日の運動』などゝいふ小説を書いたのであるが、あゝいふ花やかな友達を失つてゐる此頃の自分は、因循性の写る鏡を奪はれたやうなもので、当時は少くとも鏡に写つた瞬間だけは反撥力を振ひ、秘かに「一、二、三!」とも叫んだのであるが――彼は、そんなことを思つて「あゝ!」と溜息を衝いた。……「われ吹く笛は、闇の夜の戯れか。」当時歌つた、それは当時の溜息だつたが今ではそれ程微かな戯れも浮ばなかつた。「黒猫を抱けば夢よ、サフランと、桐の花とにさゝやかむ。」などゝも歌つたのだが、今では、どうしてそんなわけも解らないことを歌つたのか! 見当もつかないのだ。「朽ちる船に身を凭せて。」と、いふ一句だけが、いくらか凋んで行く心に触れる気がしたゞけであつた。それ
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