仕方がなしに来てやつたんぢやないか、馬鹿/\しい、こんなつき合ひは私には出来やしないよ。阿父さんとは違ふんだから……」
調子づいて、阿母などに来て貰つたが、何としても面白くない、面白くないに決つてるさ! あゝいふ[#「あゝいふ」に傍点]自分の妄想は、やつぱり実現させないに限るんだ――などゝ彼は、思ひながらも、お園たちの前には、厳格な母親の言葉に悸々してゐる風を装つたり、或ひは、厳格ではあるが心の温い母親に、いくつになつても甘へてゐる好人物の悴である、といふ風な思ひ入れを示すやうな薄ら笑ひを浮べてゐた。――彼などが、如何程くどく招待しやうとも、今迄通りの頑なを保持して動かない母親を彼は、想像して、その母と戦ふことに依つて、彼女に対する悪感を少くする――そんな想ひに走つたのでもあつた。だが、母の不気味な弱さは彼の心に醜くゝ投影して、彼のそんなパラドキシカルな活気を縮めたのである。
「まつたく、呼んだりして済みませんでしたな! たゞ一寸独りぢや面白くなかつたもので……」
云ひかけて彼は、その面白くなかつたといふのが不道徳な妄想の戯れに過ぎなかつたのを後悔した。母親の眼の前で、言葉と心とう
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