「悪」の同意語
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)慰《なだ》める
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)それは/\
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[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]
小田原から静岡へ去つて、そこで雛妓のお光とたつた二人だけで小さな芸妓屋を始めたといふ話のお蝶を訪ねよう――さう思ふことゝ、米国ボストンのFに、最近の自分の消息を知らせなければならないこと――。
この二つのことだけは、近頃彼が、自ら例へて冬籠りの地虫の心になつてゐる因循な頭に、いくらかの積極性を与へた。母や清親などゝ野蛮な争ひをした揚句、その儘周子と三歳の英一を伴れて東京へ来てしまつた彼だつた。
だが彼は、父が生きてゐた頃も母とは幾度も争ひはしたことがあるので、今度だつてそんな[#「そんな」に傍点]ことでは憂鬱を感ずるどころではなかつた。母などとは、あんな騒ぎは忘
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