使用した矢は、二度目には役にたゝないぢやないか、最後の毒矢を放つて打ち倒れてしまへば寧ろ幸福かね。」
「打ち倒れてしまふことを怖れるんだよ。」
「この分で行つたら、間もなく僕の心は、君の云ふ通り、風の如くに干からびてしまふに違ひない。」
「風の如く、だなんて僕は、云はないよ。」
「一辺使つた矢を削り直すかね。いろいろ工夫をして、矢尻りを様々な形に拵へ直すかね、……ところが、その工夫の頭が無い、削り直す小刀はすつかり錆びてしまつた。」
「君は、楽天家だよ、そんなことを云つてゐられるんだから……」
相手は、ムツとして横を向ひてしまつた。
また彼は、別の友達に斯んなことを云つた。「僕は、此頃発明家といふ者に同感してゐるよ。スリ鉢がグラグラしない道具を発明した苦学生の新聞記事を見た時も、可成りな尊敬を払つた。これも新聞の記事だが、英国の或る男で、水の上を自由に歩くことが出来る靴を発明した奴があるぜ。」
削り直す小刀だとか、発明だとかと、そんな無稽なことを喋舌つたことを思ひ出して彼は、馬鹿/\しい苦笑を洩した。
母と襖を隔てゝ彼は、日本画家の田村と退屈な話を取り交してゐた。田村は彼れより
前へ
次へ
全83ページ中69ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング