も十歳ばかり年長の、彼の父の酒飲友達だつたのだ。――前の晩の宿酔で頭が重く、これから汽車に来ることを思ふと、吐気を感ずる、あしたに延ばさうかな――彼が縁側に丸くなつて、陽を浴びて寝転びながら、そんな退儀さを想つたり、無稽な空想に走つたりしてゐたところに、田村が来たのである。
「今日は、ひとつ私とゆつくり飲まうぢやありませんか。」
「動くと吐きさうで仕様がないんです。」
ゲツゲツと喉を鳴しながら彼は、顔を顰めた。それだけのことを喋舌ツても、胸に溜つてゐる苦い酒が揺れて、今にも込みあげて来さうだつた。「ウツ! あゝ気持が悪い。」
実際そんなに苦しかつたのだが、そんな状態を隣室の母が耳にして、何か意味あり気に感じはしなからうか――彼はふと「これも遠慮した方が好いだらう。」と、気附いた。
「昨夜は、大分愉快だつたさうですなア!」
「なアに……」
「お母さんと一処の遊興ぢや、無事で好いですね。」
「まつたくね。――ウツ、ウツ、ウツ、どうも宿酔は苦しいですね、どうも、いかん! 気持が悪るくて……阿母がそんなことを云ひましたか?」
田村は、不決断な笑ひを洩した。彼は、うつかり余計な質問を附け加
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