文学研究家だつた。
批難されると、彼は、忽ち滅入つてしまつた。滅入つたりすることすら擽つたさを覚えたが、余計な圧迫を強ひられて漠とした恐怖に襲はれずには居られなかつた。そして彼は、取り縋るやうに可細い声を挙げて、倒々斯んなにわざとらしいことを云つた。「勘弁して呉れ、まつたく君の云ふ通りだ。僕は、実際自分の言葉を持ち合せないんだ。厭々ながら強ひて持たうとすれば、己れの愚に疳癪を起す言葉だけなのだ。」さう云つた時彼は、思はず歯の浮くやうな可笑しさを覚えたが、努めて神妙に続けた。「如何思はれても、それはまつたく悲しいことだが、他に術がないんだから仕方がないんだ。僕は、せめて、自分の執つた弓で自分の胸に矢を放つて、その痛さを感ずる刹那に、多少の生甲斐を感ずるより他にないんだ。これは決して遊戯ではない。痛い/\と叫ぶ悲鳴なんだ。それも中毒が日増に強くなつて、近頃では普通の矢では悲鳴も挙げられなくなつてしまつた。土人の使用する毒のついた矢でなければ痛痒を感じなくなつてしまつた。それも何時まで続くことやら? 例へば自分の胸に打ちつける矢の種類だつて、せいぜい二三種しか持ち合せないからね、加けに一度
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