ち[#「うち」に傍点]もそれからそれへ、飛んだ破目になつたものですなア! そこで、倒々阿母さんまでが――と、云ひかけてさ……。
「ハツハツハ……」
「トン子さんに嫌はれますよ、そんなにお酔ひになつて……」
「ハツハツハ……」
 ――ハツハツハ、と、鷹揚に、肩をゆすつて笑つたら、阿母の君! どんな顔をするかな、何とか家の、何とか武士の娘! うむ、僕ア如何してもFの処へ行つて来るんだ、何も周子との結婚がうちに祟つたからと云つて、何も彼女を憎む程吾輩だつてケチ臭いわけぢやないんだ、たゞ虫が好かなくなつたまでのことだよ、恰もヘンリー・タキノのそれの如くにさ。あんな者のセイにするのは卑怯至極だ、キレイなことばかり聞されてゐたので、俺もそのつもりで生きて来たんだが、昔からうち[#「うち」に傍点]なんてそんなものだつたに違ひない、阿母の若い時分なんて、何が何だか解つたものぢやない、ぢや、どうして子供まであつたのに親父はアメリカなどへ出かけて行つたんだア! 俺アもう日本になんか帰つて来まいと思つてゐたんだが親父が死んだので無理に呼び帰らされてしまつたわけなんだ、などゝいふことをヘンリーが俺に話して、俺
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