解つてゐますよ、賢夫人、まア好いからお酒をお飲みなさいようだア! 婆アの癖に羞かむねえ、チエツ、薄気味の悪い! いや、これは失礼、婆アだなんてもつての外だつた……なにしろ阿母さんは、そんなにお若くていらつしやるんですからねえ――と、一本深刻気な皮肉を云ふのも愉快だらうぜ――一体私は、阿母さんがおいくつの時に生れたんですかな、僕アどうも算術が不得意で、半端な数の引算は直ぐには出来ないんだが、……僕アまつたく斯んな家に生れたくなかつたんだがね、おツと、何をつまらない愚痴を云つてゐやアがるんだい――。
「まア、そんなことは如何でも好いんだ、フツフツフ……馬鹿にしてゐやアがらア!」
「さア、お酌ですよ。通人におなりになつた若旦那! 何か歌でも聞かせて下さいませんか。」
「何だつて! ふざけるねえ、田舎ツペ!」
 ――……ねえ、阿母さん、あなたに歌でも聞かせてあげませうかね。それはさうと私も、春にでもなつたら思ひ切つてひとつ外国へ行つて来やうかと思つてゐるんですよ、周子の奴も沁々厭になつたし……と、云つたら、さぞさぞ阿母の奴は悦ぶだらうね、わが意を得たるが如くに、か……だが、あんな者と結婚してう
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