よ、一辺行つて来ようかと思つてゐるんだが、どうだらう。」
「それに越したことはありませんが――」
「いや、さういふやうなことを云ふとね、阿母が嫌がるんで俺、可笑しくつて仕様がないんだよ――尤も嫌がらないやうになられても困るが……」
母や清親を相手に気嫌よく飲んで見たい、さういふ我慢が出来るだらうか――彼は、そんなことを考へながら、
「僕は、この二三ヶ月で急に爺臭くなつた気がしてゐるんだ。一体その長男といふ奴は、殊に両親が若い時に出来た長男といふ奴は……」そんな話があるかどうか? まるで彼は、出たらめだつたが上の空で喋舌つてゐた。「大体馬鹿者が多いといふ話だが、そして女にばかり甘いといふ話だが……」
「ずつと前に、お父さんにそんなことを云はれて、からかはれたことがあるぢやありませんか。」
「いや、ところで僕はそんな男ぢやないだらう? と、君に訊いて見やうかと思つてゐるんだよ……僕ア……僕ア……」
「そんなところに、横になんておなりになつては駄目ですよウ! さアさア、稀にいらつしやつて何だねえ! ほんとに爺臭くなつたわ……おゝ、お酒臭い!」
お園に引き起されて彼は、がつくりと食卓に首を
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