のありさうなカフエーを二三軒探し回つたが、普段あまりさういふ処へ出入しないので、容易に適当な店が見当らなかつた。――雨の降り出しさうな寒い日の午後だつた。ウヰスキーを四五杯飲んでゐるのだが、心に変な屈托がある為か、それとも陽気が寒すぎる為か、顔も体も少しもほてツて来なかつた。
周子からあんな暴言を聞かされたが、その場の濁つた雰囲気さへ通り過ぎてしまへば、事柄は古くから彼の頭を重くしてゐることなので、今更別に驚きもしなかつた。周子には、此方から云はせるやうに煽動したやうなものである。お喋舌りの女を、ポカポカと殴つて、彼は反つて清々とした程だつた。
彼は、母に電話を掛けなければならなかつたのだ。二三日うちに小田原へ行くつもりなのだが、――突然行くのが厭だつた。
彼は、いつの間にか自家の近くの公園の中を歩いてゐた。そこで彼は、自動電話を探さうと思つたのだ。二度ばかり温和な手紙を、彼は母から貰つた儘になつてゐた。温和! それも彼は、好もしく思はなかつた。以前の母なら決して云ひさうもない言葉が、いくつも彼の眼に触れたのである。
自働電話では待つてる間が大変だ、ひとりでカフエーなどで凝と待
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