!」
「手前エの阿母は、千葉県あたりの酌婦でゝもあつたんだらう。手前エも酌婦面をしてゐるぢやないか、ハツハツハ、俺も素晴しい道楽をしたものだ。」
「うちのお母さんなんぞは……」
周子は、それを二三辺繰り反すうちに、歪んだ眼からポロポロと涙を滾した。そして音をたてゝ歯を食ひしばつた。極度の亢奮が一寸行き詰つた時、彼女は、亢奮の先端で突然風車のやうに激しく息も切らさず喋舌り初めた。
「うちのお母さんなどは、あれでも立派なものなんだ。自分の阿母は何だ!」と、云ひかけた時周子の音声は、異様に白けて、滑らかだつた。「間男! 間男! 間男! 偉さうなことを云ふない。芝居だつて、お前ンとこの家のやうな古臭いことは、此頃ぢや流行るものか! 馬鹿ア! 皆んな死んでしまへ! あたしは何だつて皆な知ツてゐるんだ、阿父さんが皆な、あたしに話したことがあるんだ、お前がそんなに好い気になつてゐるんなら何んでも皆な喋舌つてやらう、友達などにまであたしの家の悪口を云つたらう! 自分好がりの、おべつかつかひ奴! ――自分の阿母は間男を……」
[#5字下げ]六[#「六」は中見出し]
彼は、話声が外に洩れない電話室
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