ことが出来なかつた。
「俺がこんなに不愉快になつてゐるといふのに、何処まで図々しい奴だらう。普通の神経を持つた女なら、ヒステリー位ひ起すのが当り前だ。野蛮人! ……洋服とは何だ、洋服とは……」
彼は、さう云ひかけると、にわかにカツとして周子の手から編物を奪ひ取つた。そして編針を四ツに折つた。なほも力を込めて編物を引き裂かうとしたが、毛糸が伸びたゞけで彼の力では破れなかつた。一寸彼は、テレたが「何だこんなもの、何だこんなもの、好い気になつてゐやアがる――」などと叫びながら、チンとそれで鼻をかんだり、ペツと唾を吐きかけたりして、唐紙に叩きつけた。フワフワとしてゐて何の手応へもないのが、一層肚がたつた。
「勝手にしろ!」と、周子は叫んだ。「煩いから黙つてゐれば、何処までつけあがるんだらう。」
「生意気なことを云ふな。口惜しかつたら何でも其処ら辺のものを叩きこわして見ろ!」
彼が、さう云ふと周子は、
「自惚れ!」と、叫んだ。「自分ばつかり好い気になつてゐて、何といふ態だ!」そしてわけの解らないことを続けて、食卓の徳利を取つて、箪笥に叩きつけた。彼は、反つて心持の落着く思ひを味つた。
「女郎
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