が「運命」が憎くて堪らなかつた。
「何とか製薬会社、何とか建築会社――あの方はどうなつたのかね。」
「わたしにそんなことを云つたつて、知つてるものですか。」
「ぢや何故余計なお世話で、この間株券や書類を親父のところへなんか持つてつたんだ。」
「あなたが、余りクヨクヨ云ふからあたしがお父さんに頼んでやつたんぢやありませんか、取れるか取れないか、そんなことは解るものですか!」
「図々しいことを云ふな、元はと云へば皆な手前えんとこの爺が、あんなボロツ株を持ち込んだのぢやないか、親父が死んで後の仕末が俺には出来ないといふことが解つてゐれば、せめて彼奴が、彼奴といふのは手前ンとこの爺のことだよ――彼奴が、口を利いた事件だけは何とかはつきり解決をつけるのが当然ぢやないか、泥棒野郎――」
彼は、事柄の内容に就いては何の智識もなかつたから、代名詞や感投詞だけを出来るだけ毒々しく放つて鬱憤を洩した。「そりやア親父のことで俺が斯んなことを云ふのは、しみつたれてゐるけれど、何とかモーロー会社の重役などといふ名前は……」と、そこで彼は、一寸傲然と開き直つて「俺の名前になつてゐるぢやないか!」と、怒鳴つた。
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