が巧みで、わざわざ銀座通りなどへ出かけて、服屋の飾窓を熱心に研究して、周子の古袴などで流行型の子供服を仕立てゝ妹に着せてゐた。そして賢太郎は、極端な貧乏嫌ひだつた。時には、彼は女学生の描くやうな美しい絵を描いて独りで楽しんでゐた。――この頃自家が面白くないもので、往々泊りがけで周子のところを訪れてゐた。
「この柄はどう? これスカートよ。」
賢太郎は、包みの中から布れ地を取り出して周子に示してゐた。
「これ、帽子の材料? 少し派手ぢやないかしら?」
「まア、あきれた。」と、賢太郎は眼を視張つた。「姉さんなんて何も知らないのね、銀座や丸ビルへ行つて御覧なさい、……赤いからと云つたつて何も派手と定つたものぢやないわよ。僕ちやんと洋服との配合を考へて、買つて来たんだから安心しなさいよ。」
「さうオ。」と、周子は手もなく黙らせられてゐた。
「何だい、それは? 何を拵へるんだい。」
チビチビ酒を飲みながら、黙つて奇妙な光景に見惚れてゐた彼は、突然訊ねた。
「何だつて好いぢやないの。」
「姉さんの洋服よ。」と、忙しさうに毛糸などを選り分けてゐた賢太郎が無造作に云つた。
「チエツ!」と、彼は思は
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