思はず踵を立てずには居られない程の汚れた畳を発見した。
「机の置場所が何だ、机の脚が動く位ひが何の心の妨げになるものか!」
 傍から、そんな風にわざとらしく鞭打つて見たのだが、いざ畳と机の脚に間隙のある机の前に坐つて、凝ツと瞑目して、想ひを空に馳せて見るのだが、如何しても五分とは保たなかつた。――家が、まがつてゐるのだ。柱と唐紙との間には、細長い三角の棒が打ちつけてあつた。
 小窓の下にも置いて見た。椽側に平行して、障子を眼の前にして坐つても見た。床の間と三尺の隔てをとつて、壁に向つて煙草を喫しても見た。悉くの窓を明け放して、頬杖を突いて、爽々しく晴れ渡つた冬の空を見上げても見た。隣りの三畳に移して、汚れた壁を背にして、大業に腕組みもして見た。――皆な失敗だつた。何処を選んでも、脚と畳に間隙が生じて、机の面が水平にならないことに、彼は気を腐らせた。
「あゝ、もう面倒臭い――」
 彼は、間の抜けた溜息を洩して、机の上にどツかりと腰を降してしまつた。
「お父さんは、御勉強なんだからお二階へ行くんぢやありませんよ。」
 階段の下から、周子が英一をたしなめた真実味のない乾いた声が聞えた。
「イ
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