性質的であって、潜勢的一者が己自身を発展するのである。意識はヘーゲルのいわゆる無限 das Unendliche である。
[#ここから1字下げ]
 ここに一種の色の感覚があるとしても、この中に無限の変化を含んでいるといえる、即ち我々の意識が精細となりゆけば、一種の色の中にも無限の変化を感ずるようになる。今日我々の感覚の差別もかくして分化し来れるものであろう。ヴントは感覚の性質を次元に併《なら》べているが(Wundt, Grundriss der Psychologie, §5)、元来一の一般的なる者が分化して出来たのであるから、かかる体系があるのだと思う。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]

   第三章 実 在 の 真 景

 我々がまだ思惟の細工を加えない直接の実在とは如何なる者であるか。即ち真に純粋経験の事実というのは如何なる者であるか。この時にはまだ主客の対立なく、知情意の分離なく、単に独立自全の純活動あるのみである。
 主知説の心理学者は、感覚および観念を以て精神現象の要素となし、凡《すべ》ての精神現象はこれらの結合より成る者と考えて居る。かく考えれば、純粋経験の事
前へ 次へ
全260ページ中71ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
西田 幾多郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング